
2020年もWeb業界の進歩は止まりません。今回は、JS周辺のバックエンド寄りの注目技術である「Deno」と「Entropic」をざっくり紹介します。
はじめに
2020年に入り、Web業界の特にJavaScript周りの動向を調査していたところ、「Predicting the Future of the Web Development (2020 and 2025)」という面白い動画を見つけました。2020年から5年後までのWeb業界の予測の動画で、ざっくり言うと、以下の4つの予想が示されています。
- TypeScriptが爆発的に人気を集めており、React/Vue/Anguarなどのフロントエンドフレームワークで利用可能になっている現状から、TypeScriptがJSプロジェクトで最も一般的な選択肢になるという予想
- ブラウザ上での大容量ファイルのダウンロードが許容されつつある現状から、WebAssemblyにより、ブラウザ経由でネイティブアプリのような大容量のWebアプリが提供されるようになるという予想
- NPMのパッケージレジストリやGitHub Package Registoryといった中央集権型のパッケージレジストリのセキュリティ問題を挙げ、多くのエンジニアが何かしらの悪意のあるNPMパッケージによる感染被害に合うという予想
- JSの代替手段の一つであるElmを取り上げ、JSより優れている点を示しつつも、ニッチであり続けるという予想
詳しくは実際に動画を見てみてください。
この動画の(1)で、なぜか触れられていなかったのですが、TypeScriptが今後主流になっていくだろうという予想の背景として、NodeJSの作者がTypeScriptのランタイムとして開発している「Deno」の存在があるはずです。まさにネクストNodeJSと言えるものなので、今回紹介することにしました。
この動画の(3)で、「The economics of open source by C J Silverio | JSConf EU 2019」で発表された「Entropic」という分散型のパッケージレジストリの話題も出ており、会場の誰も聞いたことがなかったようなので、これも紹介することにしました。
ということで、今回は多くの人が書いている2020年のフロントエンド寄りの記事に飽きた人向けに、バックエンド寄りで注目すべき技術「Deno」と「Entropic」をざっくり紹介しておきます。
Denoの紹介
まずは、ネクストNodeJS「Deno」の紹介です。
Denoとは?
「Deno」とは、JavaScriptとTypescriptを実行するための新しいランタイムであり、V8/Rust/Tokio/TypeScriptで作られています。
背景
NodeJSの作者Ryan Dahlさんの「Deno」の紹介動画「JSDC 2018#A01 – Deno, A New Server-Side Runtime By Ryan Dahl」や、比較的新しい動画「Ryan Dahl. Deno, a new way to JavaScript. JS Fest 2019 Spring」にて説明されています。(同じスライド使っていろいろなところで登壇していますね。)NodeJSが抱えている、(1)貧弱なモジュールシステム、(2)レガシーAPIのサポート、(3)セキュリティ問題、を解決し、楽しく生産的な実行環境を作ることが現在の目的です。背景としては、「Node.jsに関する10の反省点 Ryan Dahl – JSConf EU 2018」で語っている反省に起因しています。
試す
それでは、2018年にプロトタイプと言っていた「Deno」が2020年現在動くのか試してみましょう。
インストールする
まずは公式インストール手順に沿ってインストールします。
$ curl -fsSL https://deno.land/x/install/install.sh | sh
$ cat "export PATH=$HOME/.local/bin/deno:$PATH" >> ~/.zshrc
$ deno --version
deno 0.28.1
v8 8.0.192
typescript 3.7.2
TCPサーバーを書く
公式マニュアルを見て、簡単なTCPサーバーを書いてみましょう。
$ mkdir deno-echo-app
$ cd deno-echo-app
$ touch app.ts
app.ts
const PORT = 8080;
const listener = Deno.listen({ port: PORT });
console.log(`listening on 0.0.0.0:${PORT}`);
for await (const conn of listener) {
Deno.copy(conn, conn);
}
エコーしてみる
TCPサーバーを実行します。
$ deno --allow-net app.ts
Compile file:///Users/user/deno-echo-app/app.ts
listening on 0.0.0.0:8080
エコーされるか確認します。
$ nc localhost 8080
Hello, Deno!
Hello, Deno!
OKですね。自動的でコンパイルされて実行されるのは快適ですね。
「--allow-net」は外部のネットワークにアクセスする事を許可するためのフラグです。「Deno」はセキュリティを意識してい実装されているので、デフォルトでサンドボックス上で実行されるようになっており、外部のファイルシステム、ネットワーク、スクリプトの実行、環境変数にアクセスできないようになっています。
現状はまだ「mildly stable」のようですが、試す分には大丈夫なようです。気になる人は遊んでみてください。
Entropicの紹介
次に、分散型パッケージレジストリ「Entropic」の紹介です。
Entropicとは?
「Entropic」とは、新しい分散型(decentralized)の統合パッケージレジストリ(a federated package registry)であり、新しいCLI「ds」も付属されています。
背景
背景は、冒頭で紹介した動画「The economics of open source by C J Silverio | JSConf EU 2019」で語られています。NPMを会社化した経験から、中央集権型のサービスはお金がかかり過ぎる問題があり、かつ、パッケージレジストリをプライベートカンパニーがコントロールすべきではないと。そこで、新たなOSSとして、分散型のパッケージレジストリである「Entropic」を発表するに至ったというわけです。NPM inc自体は、「NPM Pro」という月額7ドルでプライベートリポジトリが使えるプランを用意していますが、Github Package Registryとガッツリ競合しているので、やはりこのままでは会社としては短命な雰囲気です。
試す
それでは、「Entropic」で自分のレジストリを作って、、、と思ったのですが、正直取り上げるのが早すぎた感があり、公式ドキュメントは未完なので、「ds」コマンドを少し試してみるだけにしようと思ったのですが、、、インストールも失敗して動きませんでした。残念ながら試す段階にも達していないようです。
「Entropic」は発想は面白いのですが、実用化されるのはまだまだ先という感じですね。興味がある人はぜひコントリビュートしてみてください。
最後に
いかがでしたか?「Deno」も「Entropic」も2020年に正式にリリースされるかは微妙なくらい新しいOSSですが(まだ数年かかりそう)、今後のJSの発展に寄与する技術だと思います。これらを知っていれば、バックエンド寄りのJS周辺の最新技術の動向に取り残されずに済むかもしれません。ちなみに、フロントエンドの注目技術は個人的には「Svelte」なのですが、それは別の記事にします。それでは。
環境
- Deno: 0.28.1