
何かを成すにはチームを組むのは必須です。ある統計によれば一人で起業するよりも三人で起業する方が成功する可能性が高いことが知られています。人に関わらずに何かを成すことは事実上不可能であり、それを知らずに一人で全てやろうとするのは単なる無知です。今回はチームで成功を手にしたい人のために、名書D・カーネギー「人を動かす」より「人を動かす三原則」を紹介します。
はじめに
D・カーネギーの「人を動かす」はまさに人とのコミュニケーションをどうすべきかを指南した名書であり、チームで何かをする人には必ず読んでもらいたい本の一つです。
大抵コミュニケーションがうまくいっていない人や成果の上がらないチームというのは、この本に書かれている事が全くできていません。というか、この本の存在すら知らない可能性があります。この本は、エンジニアやデザイナはもちろん、全ての社会人が読むべき必読書であり、仕事ができる人でこの本を読んだことがない人はいないでしょう。
私は学生時代にこの本を買って読んでみたものの意味がわからずに途中で挫折し、新入社員の時に自己啓発本の一つとして再度買ったものの退屈だったのでまた途中で挫折し、ある程度リーダーなどの経験を積んだ後でKindle版を買ってやっと全部読破して理解できました。同じ本をまさか三回買うことになるとは思いませんでしたが、この本に書かれていることは私の経験則に照らし合わせても本当に腑に落ちる事が多く、いつも初心にかえしてくれます。
今回は「人を動かす三原則」を私の経験を踏まえて掻い摘んで紹介します。
人を動かす三原則
盗人にも五分の利を認める -> 批判も非難もしない。苦情も言わない。
要約すると「他人のあら探しは何の役にも立たず、人を非難することは天に向かってつばをするような愚かな行為である。人は論理の動物ではなく感情の動物なのだから、人を非難したところで恨まれるだけで何も得るものがない。利己主義的に考えれば、他人を強制するよりも自分を直す方が得であり、危険も少ない。人を非難する代わりに相手を理解するように努めるべきである。理解と寛容は、優れた品性と克己心を備えた人にしてはじめて持ち合わせる徳である。」ということです。
この教訓はSNSのせいで人を簡単に批判することに慣れてしまった現代人には耳が痛いものです。職場で他人の批判ばかりしている人や大声で怒鳴っている人などは十中八九仕事ができません。いろいろなところで不要な敵ができるからです。自分で自分の首を締めているのです。
仕事ができる人というのは、敵を作らないように行動するのは当然として、人をどう変えればよいかを考えるのではなく、自分がどう変わればよいかを考えます。私の経験的にもそうですが、人は変わりません。いくらその人のためを思ってアドバイスをしたとしても、その人がそれを問題だと自覚し、自分の意志で直したいと思わない限り、改善されることはありません。そして、それは非常にハードルが高いことです。他人に恨まれることを覚悟で助言するよりも、自分の行動を変えた方が簡単に結果が出ます。
結局、常に考えるべきは「自分はどう行動すべきか」の一点なのです。他人を批判するのは時間の無駄です。
以下に、この章に出てくる先人の言葉を一部抜粋します。
- 三十年前に、私は人を叱りつけるのは愚の骨頂だと悟った。自分のことさえ、自分で思うようにならない。天が万人に平等な知性を与えたまわなかったことにまで腹を立てたりする余裕はとてもない。(アメリカの実業家ジョン・ワナメーカー)
- 良いことをした時にほうびをやった場合と、間違った時に罰を与えた場合を比べると、前者の方が遥かに物事をよく覚え、訓練の効果が上がることを実証した。(心理学者B・F・スキナー)
- 我々は他人からの称賛を強く望んでいる。それと同じ強さで他人からの非難を恐れる。(心理学者ハンス・セリエ)
- 人を裁くな。人の裁きを受けるのが嫌なら。(リンカーン)
- 自分の家の玄関が汚れているのに、隣の家の屋根に文句をつけるな。(東洋の賢人孔子)
- 成功の秘訣は「人の悪口は決して言わず、長所をほめること」だ。(駐仏アメリカ大使ベンジャミン・フランクリン)
- 偉人は、小心者の扱い方によって、その偉大さを示す。(イギリスの思想家カーライル)
- 神様でさえ、人を裁くには、その人の死後までお待ちになる。まして、我々が、それまで待てないはずはない。(イギリスの文学者ドクター・ジョンソン)
重要感を持たせる -> 率直で、誠実な評価を与える。
要約すると「人を動かす唯一の秘訣は、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること、である。人間の特性である自己の重要感を正しく満たしてやることさえできれば、他人の心を自己の手中に収めることができる。人間は例外なく他人から評価を受けたいと強く望んでいるのだから、他人の長所を考え、お世辞や嘘ではない心からの賞賛を与えるべき。心から賛成した惜しみない賛辞を与えると、相手はそれを心の奥深くにしまい込み、いつまでも忘れないで慈しむのである。深い思いやりから出る感謝の言葉を振りまきながら日々を過ごすことが人を動かす秘訣である。」ということです。
人というのは気に入れなければボロクソに非難し、気に入れば何も言わないものです。しかし、それでは人は微動だにしません。人を動かすことができる人は、それと逆の事をします。それは、普段の習慣として、他人の長所を見つけて、心から褒めるということです。やることは簡単ですが、実際にできている人は少ないので、できる人とできない人に差が生まれているのでしょう。
以下に、この章に出てくる先人の言葉を一部抜粋します。
- 人間のあらゆる行動は、二つの動機から発する。すなわち、性の衝動と、偉くなりたいという願望と、である。(心理学者ジグムント・フロイト)
- 人間の持つ最も根強い衝動は、「重要人物たらんとする欲求」だ。(アメリカの哲学者・教育家ジョン・デューイ教授)
- 人間の持つ性情のうちでもっとも強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである。(心理学者ウィリアム・ジェイムズ)
- 私は決して人を非難しない。人を働かせるには激励が必要だと信じている。だから、人を褒めることは大好きだが、けなすことは大嫌いだ。気に入ってことがあれば、心から賛成し、惜しみなく賛辞を与える。(実業家チャールズ・シュワッブ)
- 私は、これまでに、世界各国の大勢の立派な人々と付き合ってきたが、どんなに地位の高い人でも、小言を言われて働く時よりも、褒められて働く時の方が、仕事に熱がこもり、出来具合も良くなる。その例外には、まだ一度も出会ったことが無い。(実業家チャールズ・シュワッブ)
- この道は一度しか通らない道。だから、役に立つこと、人のためになることは今すぐやろう。先へ延ばしたり忘れたりしないように。この道は二度と通らない道だから。(D・カーネギーが鏡に貼っている古い名言)
- どんな人間でも、何かの点で、私よりも優れている。私の学ぶべきものを持っているという点で。(エマーソン)
人の立場に身を置く -> 強い欲求を起こさせる。
要約すると「人を動かす唯一の方法は、その人の好むものを問題にし、それを手に入れる方法を教えてやることだ。人間の行動は、心の中の欲求から生まれているだから、まず、相手の心の中に強い欲求を起こさせることが重要であり、それができれば万人の支持を得ることに成功する。」ということです。
人を説得して何かをやらせようと思った場合、その前に、まず自分に「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか?」を尋ねることが必要になります。そして、説得する時は、終始、相手の要求について語り、どうすればその要求が満たされるかを話すようにしましょう。そうすれば、自分の要求を一言も口にせずとも、相手が思った通りに動いてくれます。
これは「常に相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える」というビジネスで顧客と接する時の基本中の基本の考え方です。
例えば、何かを売ろうと思った時に、見込み客に強引に売り込みをしに行ったところで、結果は目に見えています。誰も売りつけられたものを買いたくはないからです。逆に、欲しい物がある人は自分から連絡してきてくれ、買ってくれます。
別の例で言うと、最近いろいろな便利なWebサービスがあるため、それら複数に登録している人が多いと思います。そうすると、たまに、登録しているサイトからアンケートのメールが届く事があります。サービスプロバイダーからしたら、顧客の意見を聞いて改善したいというのは当然の欲求ですが、通常そのようなアンケートに顧客が答えるメリットは何もありません。時間の無駄です。ここで、相手の立場で考えることができているサービスプロバイダーの場合、500円分のクーポン券など、アンケートに見合ったインセンティブを用意します。そうすれば、顧客がアンケートに答える欲求が生まれる可能性が上がります。言われてみれば当たり前ですが、できていない企業は多いです。誰でも思い当たる企業が周りにあるはずです。彼らはこの本を読むべきですね。
以下に、この章に出てくる先人の言葉を一部抜粋します。
- 釣り針には魚の好物をつけるに限る。(イギリス首相ロイド・ジョージ)
- 成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同人に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である。(自動車王ヘンリー・フォード)
- まず、相手の心の中に強い欲求を起こさせること。これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、一人の支持者を得ることにも失敗する。(アメリカの心理学者オーヴァストリート教授)
- 自己主張は人間の重要な欲求の一つである。(ウィリアム・ウィンター)
ところで「コミュニケーション能力」とは何か?
ここまで読んで、そういう疑問を持った人もいると思ったので、一つの解を提示したいと思います。
「真に組織に求められるコミュニケーション能力とは、コミュニケーションの不確実性を減少させる能力のことだといえます。」
はい、受け売りです。これは、「エンジニアリング組織論への招待」という書籍に書かれている文章です。この本はある程度経験のあるエンジニアが読むと、過去を振り返ってコミュニケーションの問題を見直せる良書です。D・カーネギーの本は抽象度が高いので、もう少し具体的に考えたい人はこちらも読むと良いかもしれません。
最後に
いかがでしたか?D・カーネギーの書籍は効果的なコミュニケーション方法を教えてくれています。万人向けの書籍ではありますが、エンジニアやデザイナーとしてチームの中で貢献したいのであれば、学べることは山ほどあります。結局最後は人と人。チームで価値を提供するには必須の教養です。では。